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credit:孤独のグルメ/テレビ東京

原作・久住昌之、作画・谷口ジローによる漫画『孤独のグルメ』は実写ドラマ化され大人気となりシーズン5まで作られています。
海外のサイトでドラマ版『孤独のグルメ』が紹介されていました。

引用元:avclub.com

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日本でテレビのチャンネル切り替えは他国には到底かなわないような感覚的負荷を提供している。
クリック。揃いのユニフォームを着た75人からなる少女アイドルグループが現実社会では契約上許されていないボーイフレンドについての歌詞を歌っている。
クリック。お笑い芸人がバラエティ番組で股間をパンチされている。
クリック。50代のビジネスマンがランチを食べている。孤独に。ゆっくりと。

信じようと信じまいと、最後にあげた『孤独のグルメ(The Lonely Gourmet)』は2012年のデビュー以来日本で最も人気のテレビ番組となっている。
ベストセラーの漫画が原作で最近第5期が終了した。
『孤独のグルメ』は1時間のスペシャル番組が作られ、iPhoneアプリがあり、コレクターズトイも作られている。
どれもヒーローとは程遠い、西洋家具の輸入業者・井之頭五郎をフィーチャーしているのだ。
西洋のスタンダードで言えばこれはかなり混乱したテレビ番組だ。
これは緩い語りと我らが主人公がしょうがなく置かれた漠然としたプロット的な状況と天ぷらタイム(食事)が組み合わさったドラマだ。

ここで『孤独のグルメ』の典型的なエピソードを紹介しよう。
シーズン5のエピソード6:東京の隣にある大岡山にやってきた五郎は駅から歩いて会議の場所へと赴く。
彼は瘦せ型の長身で目立たないネイビー色のスーツを着ている。
”今日の取引が上手くいけばかなりの大口になるぞ”彼はそう口に出す。
五郎はオフィスの家具を新調したいという会社のボスと打ち合わせを行い、詳細について念を押す。
 
”オフィス環境にはどのようなものをお探しですが?”と五郎。
”本年度の予算を消化したいだけなんだ。”とボス。
”結局のところ、君はどの位金を稼げればいいんだね?”

”この話はお断りさせていただきます”五郎はそう言うとオフィスを出て行った。
通りに出た途端に空腹になる五郎。
これがその顔だ。
 
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credit:孤独のグルメ/テレビ東京

重要な事を言っておくと、30分のドラマのうちここまででわずか4分だ。
ここで五郎の眼が何かをロックする。
カメラが明かすのは地元の魚介系食事処。
今回五郎が征服するのはこの店だ。
店に入って角の席に座り、彼が注文したのは刺身と煮魚の定食。
サイドディッシュにはオムレツ(卵焼き?)、湯豆腐、葱の辛子和え、そしてご飯が付いている。
五郎は優雅に、優しく料理を口の中に入れていく。
食べ、啜り、咀嚼する様はどれも見ていてストイックだ。
しかし、彼の内なる声は実に満足げだ。
”美味い刺身に醤油、そして白米。日本人で良かった”
カメラが魚のタルタル(なめろう)の上をゆっくりパンする時にはYello(スイスのバンド)の『Oh Yeah』にも似た音楽が流れる。
そしてこれは今回のエピソードを締めくくる方法でもある。
音楽が次第に盛り上がっていき、五郎はまるでその音楽を聴いているかのように食べる速度を上げていく。
そしてネクタイに染み一つ付ける事無く食べ終わる。
店員にお礼を言って店から出、良い食事が大きな仕事を逃した憂鬱を洗い流してくれたとかなんとか呟きながら満腹で歩き去っていく。
エンドクレジット。

ここで更に奇妙な事がある。
タイトルカードの様にエピソードが終わるたびに孤独のグルメはフィクションであり五郎、料理人、女主人、五郎の隣に座って後に五郎の刺身をタッパーに入れた老人も役者であるが、ドラマで出てくるレストランと料理は実際の物であると紹介しているのだ。
実際のレストランをフィクションのドラマに出しているのは『孤独のグルメ』だけではない。
東京にある実在のラーメン屋を巡るラーメンに嵌ったエキセントリックな高校生が主人公の『ラーメン大好き小泉さん』というドラマもある。
対して五郎はバーやダイナー、麺ショップ、天ぷら屋などに赴き、日本の素晴らしい多様性のある食事を紹介している。

さて、このドラマの何が人々を引き付けているのだろうか?
日本人は飽くなき食欲を持つ人に対して飽くなき欲求を持っているという部分がある。
そういう健啖家がスリムな時は特に。
数年前、日本はギャル曽根という大食いの女性に夢中になった。
彼女は100ポンド(約45kg)以下の体重で10ポンド(約4.5kg)のカレーを数分で食べてしまう。
日本にはファンからのリクエストに答えつつ凄まじい量の食事をする事でセンセーションを起こしている大食いのYoutuberもいる。
(そういうスターは大抵女性で、中にはカメラの前で食事をする事で月1万ドルを稼いでいる人もいる)

が、『孤独のグルメ』は飽食の祭典という訳ではない。
五郎は通常の人の注文の4倍位の量を頼んでいるから我々はそのレストランのメニューをより多く見る事が出来る、ではなく、スリムな五郎がたっぷりと食事をするさまをより楽しむことができる。
多くの大食いYoutuberと違って五郎を演じている松重豊は見ていて凄く楽しい。
もし彼が回路基板に半田付けをする職人をクローズアップするドラマがあって彼が主人公を演じるとしたら見ると思う。
『孤独のドラマ』には不可解ながらも普遍的な魅力があり、私は娘のアイリスと一緒にこのドラマを見ている。
これは娘と評価が一致する数少ないドラマの1つでもある。
(今や娘がご飯の上に醤油をかけるのを注意しようとすると”ダッド、五郎もそうしてたよ”と言われてしまい、そうなるともう反論できない)
そういう事で今年の7月に家族で東京を訪れた時は”ヘイ、五郎が行った店に行けるんじゃないか?シーズン5の6話に出て来たお店とかどうだい?”となった訳だ。

件のエピソードに出て来た魚介系食事処の名前は『九絵』という。
大岡山駅の近くの静かな角にあるキュートな青い屋根のお店だ。
私と妻と娘は数人の老女と昼の休憩できたであろう一人の会社員(五郎の若い版)と相席になった。
私達は五郎が注文したものを注文してみた。
あり得ない位の量の食事がつく約12ドル(1200円)の九絵定食だ。

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credit:孤独のグルメ/テレビ東京
 
このお店には20数名の客が入っていて、自分の気付く限りみんな九絵定食を頼んでいた。
30分程誰にも料理は運ばれず、それから一気にキッチンから運ばれてきて笑顔がお店の中にさざ波のように広がっていった。
同席の人のトレイを覗き見た感じだと刺身と煮魚はシェフの気まぐれメニューとなっているらしい。
まるでスペースマウンテン、トラベルチャンネル、『恋人たちの予感』のデリカテッセンが組み合わさったような実に奇妙な食事体験だった。
第4の壁を越えて、ドラマの世界に入ったような。
※第4の壁は舞台と観客の間にある概念上の壁の事
味噌汁付きの『カラー・オブ・ハート』のような、あり得ない感じだ。
何故そうなのか把握するのに随分と時間がかかった。
ガイ・フィエリ(アメリカの料理番組)と井之頭五郎の間にはどういう違いがあるのだろうか?
『孤独のグルメ』の製作者はリアルな説得力を持たせる最良の方法は薄いフィクションのベニヤ板を使う事をよく心得ているのだ。
カメラクルーが店の中に入っていって場面転換。
カメラを目の前で振り回されながら”普通に振る舞ってください”と言われる位居心地の悪い事は無いだろう。
逆説的な事に、スタッフとカメラに慣れた役者を連れて行って女主人につまみ出されるまで撮影をした方が地元のレストランでの食事を忠実に再現できるという事だ。
証拠が欲しい?
『孤独のグルメ』をエンドクレジットの後も見続けたらいい。
久住昌之(漫画版『孤独のグルメ』の作者)が同じレストランを訪れる。
こちらは普通の料理番組にありがちな全てが詰まっている。
悪い音声、乱暴なボイスオーバー、料理人との堅苦しい会話だ。
”頼むから本物の料理屋を出してくれ!つまり、フィクションの方を”と画面に向かって叫びたくなるだろう。

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credit:孤独のグルメ/テレビ東京



●comment
イエス!まだシーズン1しか見てないけど『孤独のグルメ』は最高だね。
シーズン4まで出ていてシーズン5が来て新年にスペシャル番組があると聞いた。
今、日本には料理ドラマとアニメがあるね。
日本には料理をテーマにしたリアリティ番組とドキュメンタリーがたくさんあるから、その飽和のバランスをとるためにドラマやアニメを作っているんだね。
で、上手くいってると。
それから谷口ジローが作画をしてる原作の『孤独のグルメ(Le Gourmet Solitaire)』はフランスで凄く人気があるし、マリオとフォールアウト4をネタにしたパロディ漫画もある。
もし『焼きたてジャパン』や『食戟のソーマ』、まったりした『甘々と稲妻』なんかが好きだったらどれも原作は漫画で凄く面白いし、ドラマとの良いライバルでもあるよ。

●comment
『孤独のグルメ』はLINEのスタンプを買ったくらいのファンだ。
(それから谷口ジローは英語圏以外では疑問の余地がない位人気だと言える)
松重豊も好きなんだけどドラマ版はまだ見た事が無いな。
ドラマが漫画版の雰囲気を捉えてるとは思えない。
悪い事ではないんだろうけど、そこで気が引けてる。
どの位違うんだろうか?
ところでみんなは『遙かな町へ』は見た/読んだ事あるか?
多分一番好きな谷口作品なんだけど実写版は好きじゃないんだ。
実写はなんだか冷たくて違う感じがする。
※『遙かな町へ』はフランスで実写映画化した

●comment
↑日本で読んだ『散歩もの』と同じかな?
車を押収されて歩く事にした男の話なんだ。
素晴らしい作品で、最後に久住昌之による中野についての写真付きのエッセイが載ってる。
中野は東京に住んでた時に近所だった。

●comment
↑面白そう。
英語に翻訳されてるのかな?

●comment
↑もし”男が歩く”のを面白そうだと思うなら、お勧めだね。
残念ながら英語に翻訳はされてない。
『散歩もの』は”walk stuff”とか”stuff seen on walks”という意味になるかな。

●comment
『ワカコ酒』もキュートだね。
(実写版は見てない)
1話3分だから見るのに時間かからないし。

●comment
映画『タンポポ』の冒頭に出てくるラーメンの楽しみ方を思い出した。
というか『タンポポ』のあらゆるシーンを思い出した。

●comment
↑『タンポポ』に出てくるゴローと言えばラーメンが何より好きなトラック運転手だな。

●comment
『ワカコ酒』については?
同じように漫画から始まって実写版が作られる前にショートアニメが作られた。
実際のレストランに役者が行って撮られてる。
(実際のシェフが登場してると思う。あるいは料理を作るシーンの手の部分は)
題材に関係した緩い語りと恍惚とした表情とナレーション等々。
このフォーマットは人気みたいだな。

●comment
↑それを忘れてた。
よしながふみも実際に存在するレストランを取り上げた回顧録的漫画を描いてるね。
アニメやドラマ化してるかどうかは知らないけど、してたとしても驚きはないな。

●comment
日本食は魅力的だと思うしもちろん凄く美味しいんだけど、一見シンプルに見える料理ですら調理するのが凄く大変なんだよな。
この記事に出てくる料理を読むだけでも刺身、煮魚、サイドディッシュに卵焼き、湯豆腐、葱の辛し和え、ご飯が出てくる。
自分の限られた経験から言ってもこれらの料理を作るためには少なくとも5個の鍋が必要になるし、それぞれに違った出汁を使うという事にみんなは気付いていないだろう。
しかもその出汁は別々の出汁を煮出して作る訳だから更に鍋が幾つか必要になる。

フランス料理も似たような手数になるけど日本式の料理はいつも”これなら簡単そうだ”と思うんだけど3時間後に出来たのはソースだけでがっくりしてしまうんだ。

●comment
井之頭五郎のアクションフィギュアを買ったよ。
ご飯を食べてるシーンを再現したりバットマンと戦わせてる。





海外からも孤独のグルメの舞台探訪をする人が出てくるとは。
『孤独のグルメ』は台湾でも大人気で台湾版も作られています。
追記:吉永ふみ→よしながふみに修正。ご指摘感謝です。
追記2:上司→ボスに修正。ご指摘感謝です。




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