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こちらの記事の続編になります。

セイコーエプソン塩尻事業所の腕時計製造工場を見学してきたレポートに対する海外の反応です。

引用元:timezone.com

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●ロンドン、イギリス
翌日早朝にさっぱりした気分で起床してからホテルロビーでセイコーの担当者に出会って駅へと向かった。
都内を30分間横断して、セイコーの工場がある塩尻行の列車が出る新宿駅に着いた。
工場は東京の東に80マイル(※約128km)ほどいったところにあり、盛岡工場の1/4ほどの距離なのだが、新幹線が通っていないため移動の時間は若干長くなる。
移動して標高が高くなるにつれ明らかにスピードが遅くなっていき、列車の窓からは時折急な斜面や崖が見えていた。
そして至る所で収穫したての稲が9月の太陽の下で干されていた。
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道中、車窓からセイコーの建物を幾つも見るたびにセイコーがどれだけ大きな企業なのかを思い出した。
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目的地について最初に目にしたのが駅時計。
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それからプリウスのタクシーに乗り込んだ。
プリウスのタクシーは日本全国にあるようだが、東京は例外で昔ながらのクラウンのタクシーも走っている。
車内でiPhoneはアポロ11号が月を往復した時のコンピュータよりも計算能力が高いという話をした。
東京の平均的なタクシーでもケネディ宇宙センターの制御室よりも強力なコンピューターを搭載しているようだ。
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工場への道中はぶどう棚に驚いたが、この辺りは日本ワインの名産地なのだとか。
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収穫を数週間後に控えてブドウの房には虫から守るために紙の袋がかけられていて、これは温室効果もあるため夜間でも太陽熱を保つ働きがあるのだとか。
こんな方法は初めて見た。
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20分後に工場へ到着
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眼の良い諸君ならこの工場がセイコーとエプソン2つの名前を関してる事がわかるだろう。
興味があるならあと書きで2社の関係を説明することにしよう。
ここでも再び温かく迎え入れられ、靴をスリッパに履き替えて施設の簡単な紹介を受けるために会議室へと向かった。
この施設をざっくり紹介しよう。
1942年に東京から移転し、施設内には6棟の建物が建っていて社員数は600人だが我々が見学したクォーツのグランドセイコー、スプリングドライブ、クレドールの超高級モデルであるマイクロアーティスト工房が作られているエリアで働いている人はその1/4以下の人数だった。
そしてその時計の他に今までに500個売り出したキネティックやセイコーが最も誇りとしているアストロンGPSソーラーも作っている。
発表があったのは2年前だったが去年は新しいムーブメントを開発し、これによって最初のバージョンよりも40%も小さくなった。
例を挙げるなら、初期モデルは基盤が2枚だったのに対して新しいモデルは1枚で済んでいる。

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トレイの下段が旧モデルで上段が新モデルのコンポーネントで、左にある充電池の大きさや右にあるGPSアンテナの違いを見て欲しい。
新しい充電池は50%ほど小さくなり、アンテナも38mmから35mmになっている。
つまり、今ではこのモデルの女性用サイズも作れるという事だ。
更にコンポーネントが小さくなってもモーターはよりトルクの大きなものを使っているため太い針も使えるようになった。
そして社内開発のガラスコーティングを向上させたことにより光の99%をソーラーパネルに届ける事ができるようになったのだとか。
新しいムーブメントは旧モデルよりも3.2mm薄くなり20g軽くなったうえにより機能的でパワフルになったという訳だ。
初期のアストロンGPSソーラーが革命的というなら新モデルは短期間での進化形態といったところか。
次は何を見せてくれるのか息を呑んで待っていた。

その後は会議室を出て工場へと向かった。
廊下を歩いて角を曲がるとこのサインが。
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その時私はソニーのRX-1とメモ帳を持っていて明らかにそのサインに反していたのだが、担当者が”好きなように撮って問題ありません。駄目なときは知らせますので”と言ってくれた。
最初に見たのが検査室でここもまた双眼鏡がたくさんあったが、気になったのは机の前にある巨大な箱だった。
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作業員の背後にもあるのだが、これが巨大な紙のフィルターで後ろからゆっくりと空気を吸い込み(数ミクロン単位の)埃を紙で捕らえるため机の前は完全にきれいな空気となっている。
もちろんこの設備は社内開発のものであり、いままで50ほどの工場を見学してきたがこんな設備は初めて見た。

次に行ったのがスプリングドライブの組み立てエリア。
流れ作業での製造を想像していたのなら残念ながらそれは間違いで、この組み立てエリアはグランドセイコーの組み立てエリアよりも小さい。
1日の製造数がスプリングドライブウォッチは8個、スプリングドライブクロノグラフが3個だというのも納得できると思う。
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しかしスプリングドライブの生産がリミテッド(限定的)いうなら、次に訪れたマイクロアーティスト工房はミニスキュール(非常に小規模)というにふさわしいだろう。
ここはスタッフが11名で、過去5年に作ったクレドール・ソヌリは僅か26個だ。
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更に別モデルであるミニッツ・リピーターは更に少数で今のところ3個しか作られていない。
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もっともソヌリは1500万円、ミニッツ・リピーターは3400万円なので市場はそんなに大きいという訳ではない。
それでもセイコーはカタログで新しい時計を発表しており、叡智Ⅱはシンプルな3針時計で価格は550万円で安くはないのだが年間20個の生産を見込んでいる。
しかしこれは素晴らしい。
マイクロアーティスト工房は立ち上げる時にスタッフをスイスのフィリップ・デュフォーの下で修業させており、この時計に彼が込めた美学を理解できると思う。
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エナメルのダイアルは手製でインデックスも手塗りだ。
ラピスラズリを乳鉢で摺りおろし、油を混ぜて塗料にして細い栗鼠毛のブラシで描いている。
その後エナメルはオーブンで焼かれ、その工程を適切な深さになるまで繰り返す。

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ダイアルもゴージャスだが、ムーブメントはそれに輪をかけていいと思った。
これほど美しいデザインのムーブメントは久しく見なかった気がする。
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リンドウの茎を使い手で磨いたプレートの仕上げ面、各パーツの面取りを見て欲しい。
皮肉な事にリンドウの茎に潤滑作用がある事を発見し、それを始めて仕上げに使ったのはスイス人だった。
セイコーはしばらくの間スイスから少量のリンドウを輸入して使っていたが、やがてそれが日本にも生えていることを知り今では日本のリンドウを使用している。
ばねを格納するバレルの底には菊の模様があしらわれ、マイクロアーティスト工房のロゴにも使われていることに注目してほしい。
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工房の外にはマイクロアーティスト工房の理念と使命が掲げられている。
書かれている英文は「マイクロアーティスト工房の時計は所有するのではない、時代へ引き継ぐために一時世話をしているのだ」とも読める。

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それからグランドセイコーのクオーツ、スプリングドライブの部品を作っているエリアを見学した。
もしセイコーの時計が素敵なケースに普通のクオーツムーブメントを使ってるだけだと思っているならそれは大いなる間違いだ。
ムーブメントは機械式のグランドセイコーと同じ位素晴らしい仕上げをしている。
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ここでも1人が1つの時計の面倒を見るというルールが適用されていて、双眼顕微鏡を使っているのが素晴らしい。
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ケースに入れられたのちに防水性能と正確さがテストされる。
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部屋の隅には耐圧テスト機が置かれている。
全ての時計は規定より25%超の圧力を加えてテストされる。
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機械の横ではスプリングドライブ・マリンマスターがトレイの中に入れられて温度テストを待っていた。
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金属を青染めする方法は着色合金や化学処理など幾つも方法がある。
あるいは一定温度に熱していき、色が青く変わったところで焼くのをやめるという昔ながらの方法もある。
セイコーの高級時計ならばやはり昔ながらの方法が良い。
右手を金属プレートに置き、パーツをホットプレートの上に乗せて目視で色がちょうどいい色になったのを確認してパーツを取り上げる。
大量生産からもっとも遠い方法だ。
彼は2分おきに手を動かしていた。
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バトン針を作っている様子はある意味でもっと印象的だった。
それぞれ個々に大きな研磨盤を用意していて、作業員はいろんな角度の研磨パッドを使って磨いていくのだ。
それ自体は印象的じゃないかもしれないが、針は9面あってそれぞれの面を数回研磨して完璧な面を作り上げているという点が驚きだった。
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次に見たのはケースの製造工程でこちらもディテールへのこだわりが凄かった。
ケースは研磨機に取り付けられた大きな拡大鏡で確認しながら磨かれていく。
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この時点で時間が来てしまったが、もう1つ見せてくれたものがあった。
それは立ち入ることを許されなかった唯一の場所、アストロンGPSソーラーの製造ラインだ。
許されなかったのはセキュリティ関係ではなくインテルの製造現場と同レベルの清潔さをもった現場だったからだ。
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なので窓越しに見る事になった。
興味深い事に製造ラインはガラスで遮られているので全製造工程を作業員の背中越しに一瞥することができる。
多くの工程がセイコーエプソン自ら作ったハイテク機械で行われている。
これは針が正しい時間に正しい場所に来るように修正する機械。
左の画面では針が拡大されていることに注目。
機械で持ち上げてダイアルの正しい位置で取り付ける準備をしている。
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この画面では時針をどの位置に取り付けるかを表示している。
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アストロンGPSソーラーの製造工程をもっと見たかったけど時間が来てしまったし、電車に乗り遅れるわけにも行かなかった。

こちらがセイコーの開発したセイコークリスタルクロノメーターQC-951。
世界初の卓上クオーツ時計で、1964年に開催される東京オリンピックに最適だろうと考えられていた。
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しかし元々はスポーツ時計に必要なスタート/ストップ機能が付いていなかった。
そこで頑張って電気信号でスタート/ストップできる機構を組み込んだのだ。
スターターピストルの発射光や光線が遮断されるタイミングでスタート/ストップするようになっていた。
この新技術で1/100の時間まで図れるようになったが、それは本当のブレークスルーではなかった。
本当に凄かったのはこの時計にはプリンターが組み込まれていて計測結果をすぐに印刷できたことだ。
そのデバイスはElectronic Printer 1st modelの頭文字をとってEP01と呼ばれていた。
オリンピック後、セイコーにはそのプリンターをタイマーなしで買いたいという注文が殺到した。
ほとんど不本意な形でセイコーはドットプリンターを発明したのだ。
この新しいプリンターを製造販売するためにセイコーは新しい部門を立ち上げる事にした。
製品の開発に費やされるよりもはるかに短い時間でその会社の名前は決まった。
そのプロジェクトはEP01から始まり、新しいビジネスはEP01の息子という事となる。
そこでエプソン(EPSON)と呼ばれるようになったのだ。
セイコーエプソンはセイコーグループの一員だがセイコーウオッチ株式会社やセイコーホールディングスとは異なる株主を持っている。
しかし今でも服部家が大株主だ。

●パームハーバー、フロリダ州、アメリカ
素晴らしいレポートだった!
ありがとう!
自分の結審に大いに役立ってくれたよ。
製造工程を見た事だし次に買う大物はアストロンGPSクロノグラフにしようと思う。

●香港
レポートありがとう。
別のレポートも読んだけど機械式もスプリングドライブもセイコーの製造工程は魅力的だね。
最近グランドセイコー・スプリングドライブSBGC007(かなりレアな青緑のダイアルフェイス)を買ったよ。
結構あっさりしてるんだけどケースから針まで全て手作りで美しい。
このレポートを読んで自分がどういうものを持っているのか、どんな意味があるのかを理解できたよ。

●コペンハーゲン、デンマーク
ありがとう。
大きなクリスタルクロノメーターQC-951が良いね。
デザインもいいと思う。

●オーストラリア
小さな部品にまで注がれた技術と努力が素晴らしいな。

●アメリカ
写真も素敵だった。
Electronic Printer会社の息子の話がためになって魅力的だったな。

●サンフランシスコ、カリフォルニア州、アメリカ
セイコー・デュフォー(※クレドール・ソヌリ)の値段は非常に説得力があると思う。

●サンディエゴ、カリフォルニア州、アメリカ
ありがとう!
マイクロアーティスト工房とフィリップ・デュフォーの関係を知ってますますクレドールが欲しくなってきた。
そしてこれほど興味深いあと書きは初めて見た。

●不明
君のレポートを読んでからスピードマスターからグランドセイコーに変えたよ。
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●カナダ
パートIIも面白かった。
セイコーの時計は木じゃなくてぶどうの蔓になるのかな?

●ニューヨーク州、アメリカ
ありがとう、素晴らしかった。
勉強になったし楽しかったよ。

●シカゴ、イリノイ州、アメリカ
クレドールが欲しくなった。
持ってる時計を売って、車も売って、副業をしたらなんとかなるかな……

●不明
あと書きだけで充分価値がある位だ。

●カリフォルニア州、アメリカ
素晴らしかったよ。
ありがとう。





流石はセイコーの超高級モデルだけあって塗料まで自分で作るというこだわりようです。
手作りだけでなくモデルによって最新機械と使い分けて作っているようです。