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北海道の獣医学部を舞台にしたコメディ、佐々木倫子作『動物のお医者さん』(wikipedia)は1987年から1993年にかけて『花とゆめ』に連載され大ヒットとなりました。
売り上げは2000万部を誇り、この数字は少女漫画の売り上げ歴代トップ10にも入っており、全国にハスキー犬ブームを巻き起こしたほどでした。

さて、この作品を海外でレビューしている人がいました。
URLを見る限り、MITの学生でしょうか。(当時)

引用元:mit.edu
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■佐々木倫子による微笑ましいユーモラスな獣医学部学生漫画

穏やかで静かなユーモアを持った、ハムテルというニックネームの若い獣医学部学生…
彼の怖可愛くて優しい性格をしたシベリアンハスキーのチョビ…
友人であり学部の仲間でもあるネズミ恐怖症な二階堂…
痛みに鈍く、おかしな新陳代謝を持った女性獣医研究者…
時々アフリカの民族衣装で着飾り、わずかにサディスト的意地悪な性格をした風変わりな教授…
領域を脅かすものにはテロ行為も辞さない雄鶏、関西弁で物を考える生意気な猫と無数の動物のパレード。
犬、猫、鳥、牛、馬、齧歯動物と病原菌のペトリ皿…

学生生活、いかれた状況、ちょっとした獣医学の知識とたくさんの動物達と彼らのおかしな描写が詰まった傑作漫画、『動物のお医者さん ("The Animal Doctor")』へようこそ!
『動物のお医者さん』は、アクション、冒険、ロマンス、悲劇といった過去の作品のありきたりな要素を大きく切り取り、素晴らしい日常フィクションを作り上げた。
ここでは深い悲劇や深い哲学、ヘビーなロマンスや血気たぎるアクションを見つける事は無い。
その代わり、たくさんのおかしな状況、静かな同意、忘れられないキャラクターのある素晴らしい読み物でもあるんだ。
主人公は青年と犬(前述の”ハムテル”と”チョビ”)、舞台は結構広々とした北海道(日本の北方の島だ)の大学の獣医学部だ。
シチュエーションとストーリーはおかしく、啓蒙的で、有益で、(重要なのが)リアリティがあるということだ。

内臓を調べるために牛の中に手を突っ込んだり、どの実験装置を買うかで争ったり、縄張り争いで鶏と闘ったり…これが『動物のお医者さん』だ!
しかし、それ以上に注意を引かれるのがコマというコマにたっぷり詰め込まれたユーモア。
ほとんど全てのページに小さなジョークや静かなユーモア、動物達の思っていることが詰め込まれているんだ。
(怖い顔をしたチョビの可愛い”あそんで?”や、横柄な猫がうんざりした時の顔を見てくれ)
愚かな教授が考え出した犬ぞりチームの1コマ(犬種などお構い無しで借りれるものを何でもかき集めてきたんだ)、暑い夏の日にチョビが探し出した涼しい場所が最後には人間に取られてしまったり(西瓜の置き場所にすら…可哀想な犬だ)。
これには文章のユーモアと映像のユーモアが素晴らしいミックスとなっていて、どたばたギャグなんて入っていない。
(人間のシャツで鼻をかむ馬をどたばたギャグにカウントしないとしたら)

出てくる登場人物のほとんどが見せ掛けじゃない洗練された皮肉的ユーモアの持ち主で、それが作品に空気を与えているんだ。
それに登場人物はみんなそれぞれ違っていて、知的で、少し突飛でちょっと大げさではあるけどどこかにいそうで、間違いなく好感の持てる人たちだ。
(ちょっとだけしか出てこない教授でさえも)

可愛すぎる、ということは無く(大きな目をした動物は除くとして)、少女漫画なのにロマンスは全く無くて、お気楽でクリーンなユーモアを維持し続けているよ。
幾人かのキャラクターには興味深い事に(しかしほとんど無害に)苦手な動物がいる。
それがこの漫画をリフレッシュさせてくれている。

動物への愛と理解がこの物語と作画の両方を特徴付け、素晴らしいコンビネーションを作り上げているんだ。

いくつかストーリーの紹介

ある日、不幸な獣医学生達がある人物の個人的な目的のために細菌の培養に使っていた孵卵器を空っぽにするんだ。
理由は教授が友人から預かってきたアヒルの卵を孵すためだ。
最初は不満を言っていた学生たちだが、その中の一人が閃く。
”孵った雛は最初に見たものを親と認識するんじゃなかったっけ?”
毛玉のような雛が自分の後をつけて歩くという考えはあまりにも可愛い光景だ。
こうして最初は気の進まなかった学生たちは孵卵器の側で寝泊りする位熱心に卵の世話をし始めるわけだ。
(彼らは教授にはこの計画を話していなかった。何故なら知られたが最後台無しにされることを分かっていたからだ)
27日後、疲れきった学生たちは幸運な一人になろうと魔法の時間を待つために孵卵器の周りに集まった。
でも、教授は騙してその場から離れさせたのも…ジャンケンで孵卵器を開ける人を決めたのも…全てが無駄になってしまったんだ。
教授が最悪のタイミングで頭を割り込ませてきたからだ。
可愛いふわふわの雛が意地悪な年取った強敵の後ろをついて歩くのを見て、学生たちは打ちのめされてしまう!
ああ、全く上手くいかなかった。
今回も雛たちは正しく親の後をついていく。
この事件後しばらくの間、”孵卵器で卵をかえそう”病が流行ったが、結局その孵卵器は獣医学部の細菌を培養するという役目へと帰って行ったんだ。

別の話では、学生たちは教授が野生に返そうとしているムササビの入った檻を発見するんだ。
そのムササビは大きなビーズのような目をして、柔らかな毛皮で凄く可愛かったが教授は学生たちに決して檻から出さないように警告する。
「取り返しのつかない事になるぞ」と。
学生たちは教授が単に意地悪がしたいだけだと考えてムササビを檻から出してしまうんだ。
このムササビはネズミ恐怖症の二階堂ですら可愛いと思ってしまうくらいだ。
あまりの可愛さに学生たちはノミですら些細な問題だと思っている。
しかし、本当の恐怖はまだこれからだったんだ!
教授はそろそろムササビが目を覚ます頃だと満足そうに学生たちに告げる。
そしてムササビは突然彼らのシャツに飛びつき…おしっこと糞を彼らに浴びせかける!
恐怖は解き放たれた。
教授は楽しみを得、ムササビは計画通り野生に戻される事となったんだ。

またある話では、ハムテルのクラスの学生たちはある老婦人が彼らの気まぐれな教授に対して不思議な力を発揮している事に気がつく。
彼女はグッドアドバイスを獣医学病院の待合室で披露し、教授はそれが苦手いらしい。
彼女はどうやってそんなことができたんだろう?
学生たちはそれは彼女の浮かべる仏陀のような微笑にあると考えた。
そこで学生たちは同じようにしてみたが…全く無駄足に終わってしまった。
教授は土くれのように彼らを扱い、仏陀の微笑みはあっさりと破られてしまう、しかし遂に真相は明らかになった。
真相は教授の深層意識化にあったんだ。
その老婦人はかつて薬理学の教授だったのだ。
タフな教授はかつて解剖した動物の肉を焼肉にして食べるような学生だったが、そんな彼が大学から追放されそうだったのを救ったのが彼女だったんだ。
彼女は彼のキャリアを救ったんだ!
教授の現在の教え子たちはこう要求した。「なんで追放しなかったんですか!」
しかし、学生たちには最後の希望も残されていた。
黒板を投げつけるような女教師だって聖者の様になるんだ…いつの日か教授だって変るかもしれない!
うん…そうだね…

別の話ではおかしな女性院生の菱沼が両親が飼っている生意気な雄犬が、何故自分の前だと腹を見せて服従を示すのか不思議がっている。
この犬はかつては横柄で軽蔑的な態度を取っていたのに、ある時から彼女のご機嫌を伺い服従を見せるタイプになっていたんだ。
それは自分の掘った穴に自ら落ちてしまうほどに…いつからそうなったんだろう?菱沼は不思議に思う。
記憶を掘り起こしていくと、数年前彼女がまだ新人ドライバーだった頃、彼女の運転技術は悪く(今も悪いのだが)、彼女は車庫に車を入れようとして犬小屋の半分を潰してしまっていたんだ。
こうして彼女に吠え立てていたこの犬はその瞬間震え上がる事になった。
彼は彼女が自動車で彼を攻撃してきたと確信していた。
言い換えれば彼女は自分が支配者だと彼に伝えた(と彼は考えた)訳で、それ以来彼は彼女の目の前で腹ばいになる犬になったというわけなんだ。
…もちろんこれは菱沼にとって運転技術に関する屈辱を更に刷り込むだけだったんだけど。

そう、これは世界を救うような物語なんかじゃないし、地球を揺るがすような恋物語でもない。
機転とユーモアに満ちた人間と動物の物語だ。

作者は佐々木倫子、彼女の重要な事柄を2つ紹介しよう

・彼女は動物を描くのが本当に好きで―(彼女自身がそういっているが)前作でもまったく理由も無く作品中に動物を描いていたらしい。
楽しげな動物たちはこの作品で特に輝いている。
・彼女は本当にあった話も基にしている。編集者は彼女の作る話を獣医学生の話からだけでなく読者の体験談からも集めるようにしたんだ。
したがって、エピソードの多くが本当にあった話に基づいているんだ。
(もっとも僕はカラスが唐辛子味の食べ物を気にするかどうかは疑問に思っている。少なくともオウムは気にしていなかった!)

問題点?
・日本語は比較的精巧に使われている。
その上、作者はアクションシーンでしばしば”emote(訳注:書き文字のことか?)”を使っていて、これにはほとんど振り仮名が使われていない。
もし君が漢字を読むのに慣れていないのなら、これは難易度を更に上げる事になるだろう。
・OK、時々主人公のハムテルがもっと変であって欲しくなる。彼はとても静かで大人しいんだ…
・ロマンスが無いのはいいんだけどそれでも時々物足りなく思わざるを得ない。
結局のところ男性と女性がいるわけだから。
・最後に、これが全12巻しかないのが本当に残念なんだ!

とにかく、これは大人(アダルトではなくて)、特に動物が好きで洗練された(鼻につかない)ユーモアの持ち主であれば誰でも楽しめる素晴らしい読み物だ。
『動物のお医者さん』を試してみてくれ!



お勧めの少女漫画は?というアンケートがあれば今でも必ず名前のあがる傑作漫画です。
レビューでも書かれているように作者の動物への愛がふんだんに詰め込まれたこの作品、アニマルセラピーのような効果があるんじゃないかと思うほどです。
実際、夜寝付けないときに『動物のお医者さん』を一冊ほど読むと不思議と寝付くかが良くなった程で、一時期は寝る前に読むのが日課になっていました。
読んだ事の無い人には是非読んで欲しい作品です。

『動物のお医者さん』の海外展開は調べた限りだと昨年インドネシアで発売されるまでは韓国でしか出版されておらず、スキャンレーションもほとんどと言って良いほど出回っていません。
(過去に一部されていたようですが)
なのでこのレビューを書いた方はおそらくオリジナルを読んだと思われます。
(記事のトップイメージはインドネシア版の表紙です。汚れているのではなくこういう装丁のようです)

※こちらが韓国語版の表紙
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愛蔵版
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こういう時代を超えた魅力を持った作品こそ海外で出版されてほしいものですね。